シンプルな料理ほど人を喜ばせる、ウェルシュ・レアビットはまさにその格言を体現しています。名前の由来は「本物のウサギを食べる余裕がなかったウェールズ人の冗談」とも言われますが、要するに“チーズ・オン・トースト”。それが今ではウェールズ全土で愛され、9月3日には「ウェルシュ・レアビットの日」として祝われるほどの国民食となりました。

ウェールズ人は中世からチーズ好きとして知られており、16世紀のイングランド詩人ジョン・スケルトンは「ウェールズ人を天国から引き出すには、トーストにのせたチーズを使うしかない」と冗談を言ったほどです。18世紀にはすでにウェルシュ・レアビット(またはウェルシュ・ラビット)として食されていた記録が残っています。

本来は温かいパンにチーズをのせただけの素朴な料理でしたが、今ではマスタードやエールを加えた洗練されたレシピへと進化。なかにはシャンパンを使う豪華なバリエーションまで登場しています。

どんな時に食べられるの?

ウェルシュ・レアビットは主にランチとしてサラダを添えて楽しまれますが、夜食にも人気です。チャールズ・ディケンズもエールを飲んだ後に好んで食べたと伝えられています。もちろん、毎年9月3日の「ウェルシュ・レアビットの日」に味わうのが一番ふさわしいでしょう。

シェフからひとこと

現在では、ウェルシュ・レアビットに欠かせないチーズとして熟成チェダーを使用するレシピが一般的ですが、ウェールズ産の本格的なケアフィリー・チーズ特有の乳酸の酸味は、魅力的な味わいを生み出します。ただし、ケアフィリー・チーズは崩れやすい食感のため、この料理に求められる“とろりと伸びる”理想的な食感を出すのが難しい場合があります。そこでおすすめなのが、チェダーとケアフィリーを5:5の割合でブレンドする方法です。これが私がいつもお勧めしている組み合わせです。

具体的なチーズの組み合わせとしては、「トレソーワン・ブラザーズ・デイリー」のゴルウィッド・ケアフィリーと、受賞歴のあるウェールズのチーズメーカー「カウス・テイヴィ」のケルティック・プロミスを半々で使用するのが特に絶品。後者は実際には熟成チェダーではなくウォッシュタイプのケアフィリーですが、熟成の過程でチーズがほどよく分解され、理想的なとろけ具合を実現します。チェダーを使いたい場合は、ウェールズ中部の「ホールデン・ファーム・デイリー」が手がけるハヴォッド ・チェダーをゴルウィッド・ケアフィリーと組み合わせるのも良いでしょう。

ビールを選ぶ際は、スタウトがぴったりです。特に「ガワー・ブリュワリー」のブラックダイヤモンド・スタウトは、ウェルシュ・レアビットにとてもよく合います。一方、ハヴォッドブリューイング・カンパニーの「ランドマーク・ベスト・ビター」のようなビターエールも同様に美味しく仕上がります。ビールを混ぜる前に味見をし、苦味が強いと感じた場合は、鍋に加える際に砂糖をひとつまみ入れるとまろやかになります。

このレシピは、チーズ、エール、マスタードという基本要素を忠実に守った伝統的なスタイルですが、自由にアレンジを楽しむのもおすすめです。たとえば、シードル、じっくり煮込んだリーク、ザル貝を組み合わせた変わり種のレアビットもまた絶品です。

焼きたてのウェルシュ・ラビットのスライスが乗った天板
ウェルシュ・ラビット

ウェルシュ・レアビットの作り方

分量:4人分|準備:15分+冷却時間|調理:5分

材料

• バター 15g 
• 薄力粉 小さじ2 
• イングリッシュマスタードパウダー 小さじ1 
• カイエンペッパー  小さじ¼  
• ウスターソース 適量(仕上げ用も) 
• ウェールズ産ビール 150ml 
• 砂糖 少々(必要に応じて) 
• チーズ 300g(ケアフィリーとチェダーを半々推奨) 
• 厚切り食パン 4枚

作り方

ステップ1: 鍋でバターを溶かし、薄力粉を加えて2分ほど炒める。

ステップ2:マスタードパウダー、カイエンペッパー、ウスターソースを加えて混ぜる。ビールを注ぎ、さらに数分加熱。

ステップ3: 弱火にし、チーズを少しずつ加えながら溶かす。一度に加えすぎないこと。冷ましておく(冷蔵保存も可)。

ステップ4: トーストを両面焼き、チーズソースを塗る。

ステップ5: グリルでチーズが泡立つまで焼き、仕上げにウスターソースをかける。

ステップ6: サラダやチャツネを添えてどうぞ。目玉焼きをのせるのもおすすめ。

このレシピはシェフのアレックス・ヴァインズ(Alex Vines)によって開発・検証されました。彼はロンドンの名店で10年以上にわたり腕を磨き、「シンプルかつ丁寧」な料理スタイルを確立。カーディフ出身のアレックスは、地元産・旬の食材を大切に使うことで、伝統的なウェールズ料理の精神を現代に受け継いでいます。是非、アレックスのInstagramもフォローしてください。

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