フランスにはクレープ、アメリカにはパンケーキ、そしてウェールズにはクランポガイ(Crempogau)があります。クランポガイはその中間のような存在で、クレープより厚く、アメリカンパンケーキより小さいのが特徴。伝統的な材料は、セルフレイジングフラワー(ベーキングパウダー入り小麦粉)・塩・卵・牛乳・バターで、焼き上がったものを重ねて積み上げ、ケーキのようにカットして食べるスタイルが一般的です。

ウェールズには、鉄板(ベイクストーン)でお菓子を焼く長い伝統があり、有名なウェルシュケーキもその代表格です。クランポガイ(単数形は crempog)も、もともとは同じように熱したベイクストーンに生地を落として焼くものでした。現在では、家庭ではフライパンを使うのが一般的です。

地域によって呼び名もさまざまで、グラモーガン地方では「フロエス(ffroes)」、カーディガン地方の一部では「ポンカガイ(poncagau)」と呼ばれていました。とりわけ美しいリン半島(Llyn Peninsula)では、忌明けの火曜日(Shrove Tuesday)に子どもたちが家々を回って歌を歌う風習がありました。その歌詞は、 
“Sgwelwch chi’n dda ga i grempog? Mae ‘ngheg i’n grimpin grempog!” 
(「パンケーキをいただけませんか?私の口はパンケーキを待ち焦がれてます!」) 
というものでした。クランポガイは、砂糖やハチミツ、果物などをトッピングしたり、甘くない惣菜風に仕上げたりと、さまざまなスタイルで楽しまれています。

どんな時に食べられるの?

クランポガイは一年を通して楽しまれる甘い軽食ですが、特に主役となるのが、忌明けの火曜日(Shrove Tuesday)、別名「パンケーキ・デー」です。この日はキリスト教の四旬節(断食期間)が始まる前の日にあたり、昔の人々は、断食中に控える食材(砂糖・バター・卵など)を使い切るためにパンケーキを焼いたとされています。宗教的な意味合いは薄れた現在でも、この習慣はウェールズ各地で続いており、春の訪れを感じる行事として親しまれています。 

シェフからひとこと

生地を焼く前にしばらく休ませることを強くおすすめします。これは、ベーキングパウダーとバターミルクや酢の酸が反応して気泡を生み、ふんわりとした生地に仕上がるためです。

また、小麦粉とバターミルクの比率を調整して自分好みにするのも良いでしょう。小麦粉を多めにすると生地が厚くなり、焼いたときの広がりが少なくより分厚いクランポガイになります。ただし、粉が多すぎると食感が重くなるので注意が必要です。

もしバターミルクが手に入らない場合は、ヨーグルト300mlと牛乳100mlを混ぜたもので代用できます。

A pile of crempog (Welsh pancakes) with berries and syrup
クレンポガウの重ね盛り

ウェルシュ・クランポガイの作り方

分量:4人分|準備時間:10分(+生地を休ませる時間)|調理時間:15分

材料

• セルフレイジングフラワー(ベーキングパウダー入り小麦粉)260g 
• 砂糖  65g 
• ベーキングパウダー 小さじ1 
• 塩 小さじ1/2 
• 卵 2個 
• バターミルク  400mlまたは ヨーグルト300mlと牛乳100mlを混ぜたもの 
• 溶かしバター(冷ましたもの) 40g + 焼く用のバター少々 
• リンゴ酢 またはレモン汁  小さじ2

作り方

ステップ1: 大きめのボウルにすべての粉類を入れて混ぜ、中央にくぼみを作る。そこに卵を加えて混ぜ、次にバターミルク、溶かしバター、酢(またはレモン汁)を順に加え、なめらかで均一な生地になるまで泡立て器でよく混ぜる。

ステップ2: 混ぜ終わった生地を20分ほど休ませる。その間に、焼き上がったクランポガイを温めておけるよう、オーブンを低温に予熱しておく(数回に分けて焼くため)。

ステップ3: 伝統的にはベイクストーン(厚手の鉄板)を使うが、現代では厚手のノンスティックフライパンやグリドルパンでもOK。中火で温めておく。

ステップ4: フライパンに少量のバターを溶かして全体に広げ、生地を大さじ1ずつ落として焼く。(詰めすぎると裏返しにくくなるので注意)

ステップ5: 片面を2〜3分ほど焼き、表面に細かい泡が出てきたら裏返す。目安はこんがり黄金色。裏返すときに押しつぶさないように注意(空気が抜けてしまうため)。焼けたものはプレートに重ねて、予熱しておいたオーブンで保温しておく。

ステップ6: 焼き上がったクランポガイを重ねて積み上げ、お好みのトッピングを。果物とヨーグルト、あるいは有塩バターとウェールズ産ヒースハニー(PGI認証)をたっぷり塗って、めしあがれ!

このレシピはシェフのアレックス・ヴァインズ(Alex Vines)によって開発・検証されました。彼はロンドンの名店で10年以上にわたり腕を磨き、「シンプルかつ丁寧」な料理スタイルを確立。カーディフ出身のアレックスは、地元産・旬の食材を大切に使うことで、伝統的なウェールズ料理の精神を現代に受け継いでいます。是非、アレックスのInstagramもフォローしてください。

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